ビザから読み解くニュージーランド

日本人会の皆様はいままでにビザの問題と取り組まれ、ほとんどの方がご自身のビザの問題をクリアーされてきたと思います。ここではビザ申請のノウハウではなく、ビザ申請をお手伝いする中で見られたニュージーランド(以下NZ)の側面について書いてみます。

まずは統計的な数字から見てみます。NZにおける労働人口の4人に一人は海外で生まれで、過去10年を見ますと労働人口の増加の60%は移住者で占められています。また我らオークランドのほぼ40%の人口は海外で生まれています。移住者の多さにおいてはバンクーバーに次いで世界で2番目の都市とされています。

輸出など海外向けに外貨を稼ぐ4大事業のうち二つが旅行業と教育だそうです。言うまでもなくビザが関係してきます。こう言う数字を見ると移民局大忙しといった感じがします。

すなわち移民の問題はこの国に入国したい人がこの国にとって「害」にならないかをチェックするという消極的な側面だけでなく、強いNZ経済を構築するためという積極的な側面をしっかりと持っています。したがって一般にビサを審査するときの基準にはNZの経済発展に貢献しかつ雇用の促進につながるかと言うことがうたわれています。実際移民者はNZにおける経済成長への重要かつ積極的な貢献者として期待され、位置づけられていると言えます。

ワークビザ

経済の成長を考える時に言うまでもなく重要なのはその働き手としての労働力です。この労働力を国内で見つけることが出来ない場合、海外から来てもらうことになりますがこの時にワークビザの取得が必要となります。ワークビザ申請の手続きには上記の政策がはっきりと反映されています。まずは地元で適切な人を探した事を証明するものとしてNZ国内で求人募集をしたとする広告を出すことが求められています。新聞、Trade-Me、WINZに載せた広告などはこれを証明する証拠書類とみなされます。

仮にこれらの求人募集にたして特に応募がなかった場合でも自動的に海外から来てもらう話には進みません。今いるNZ人を教えてその職をこなす人を育てられないのかと移民局は食い下がります(失礼しました!)。

応募もなく、もしくは応募はあったが適切な人でなく、かつその技術を簡単に教えることが出来ないことが証明できたとしまして、次に海外から来てもらうその人がその職種のふさわしい資格や経験を持っていることの証明が求められます。

通常は特殊な技術、資格が求められますが、いまニュージーランドが必要な労働力と言うのがポイントで、必ずしも特別な資格が必要と言う事ではありません。実際、震災後に建築ラッシュになっているクライストチャーチでは特殊技術を持つ人だけではなく幅広くその人材がもとめられています。同様に季節労働であるフルーツピッキングの仕事にもビザの取得の上で特別な配慮がされています。

ワークビザを取得して雇われる人がいると言うことはそこに雇用者が当然います。この雇用者がビザを利用して被雇用者を「搾取」していないかも移民局の大切な仕事なのです。すなわちビザがどうしても欲しいと言う人に、雇っていると言うレターを移民局に書いてあげるからとして実際には最低賃金より低い金額で働かせたり、ひどい場合には給与を支払っていないケースが新聞で取り上げられています。

ちょっとビザに話からはずれますが、労働条件が合法であるかを監視するNZの体制は徹底されています。これらの法律はNZの領海内に入ってきた漁船の乗組員にも適用されています。漁船の乗組員の労働条件がひどいとか最低賃金を下回っているとか、何ヶ月の支払われていないなどの理由でその漁船の雇用者がNZの裁判所で裁かれています。たとえ雇用主や被雇用者がNZの会社やNZの人でなくてもNZ内にいる時にはNZの法律を守れとする毅然とした態度と言うことが出来るのではないでしょうか。

起業家ビザ

自ら起業を始めるなどの場合は申請者のその仕事に関する経験と共にいくらくらいの資本投資の用意があるのか、何人くらいの雇用を考えているのかが問われます。すなわち全体としてNZにどれだけの実際的な利益をもたらすのかが、このビザの許可に強く結びついてきます。

家族ビザ

家族関係のビザとはある人(A)が何らかの有効ビザを持っているもしくは申請しようとする時にAの配偶者やパートナー、子供がAに付随して発行されるビサです。これは有効なビザを持っている人の家族が一緒に生活する権利を奪うことは出来ないと考える、広い意味での人道的配慮といえるかと思います。Aのビザの種類にもよりますが、Aの配偶者が生活のために働く権利を認めると言うことで、どこで働いてもよいとするオープンワークビザが通常発行されています。

先に述べたワークビザがいろんなハードルをクリアした上で発行されますし、これは特定された雇用主のもとでしか働けないという制約も付きます。同じ様な仕事でも雇用主を変えたい場合は改めてビザ申請がいります。これに比べて配偶者であることをその理由に得られたオープンワークビザはその名の示す通りどんな仕事でも出来るビザです。表面的な見方をしますと、付随して発行されたビザがいろんなハードルを越えて取得されたワークビザより有利な条件であることはちょっと矛盾している様にも思われますが、労働の範囲を制約しにくいこともありますし配偶者の労働権を奪うことが出来ないという合理的な考えに裏打ちされていると思われます。

ビザ申請についてのルールの背後にあるNZ的な考え方(ポリシー)の一端を紹介いたしました。

この原稿はオークランド日本人会会報2014年10/11月号に掲載したものです。