ニュージーランドでのビジネスに関係する法律問題(2)

概要

今回は、ニュージーランドにおける雇用法や雇用契約書などの基本的な知識について、特に雇用契約書に記載すべきポイントや被雇用者との間で問題が起こった場合の解決方法、解雇の手続きなどを具体的に説明します。

今回は、ニュージーランドにおける雇用法や雇用契約書などの基本的な知識について解説します。もっとも雇用法は、この法律のみを専門とする弁護士がいるくらい広い法律分野なので、今回は比較的小規模の会社が従業員を雇うときを想定して説明します。なお、以下の説明について、全ての会社に関係するものでないと考える場合には簡単に記しますが、簡単に書かれてあるから必ずしも重要でないということではありませんので、その点を注意してください。

まず、雇用法とはどういう法律かについてですが、雇用主は雇用法についてよく知っているが、被雇用者は雇用法の内容をよく知らないかもしれない、という前提に基づき構成されている法律であると考えてください。これはすなわち、雇用者と被雇用者の間で問題が起きたときに、雇用者は「雇用法で、そのようになっているとは知らなかった」などという申し開きをできないということを意味します。

雇用契約書に関して

会社が従業員を雇用する際には、書面の雇用契約書が必要であると法的に規定されています。もっとも、日本と同様にニュージーランドでも、一般には口頭での契約も法的には有効な契約と見なされます。口頭で契約を確認しただけで仕事を始める人がいるのも事実ですが、後で何か問題が起こったときに書面の雇用契約書がない場合、当局より罰則を受けるのは雇用者のみとなります。契約時にはその点を注意しましょう。

次に、雇用契約を結ぶ際に、雇用者は被雇用者に雇用契約書を見せてサインをもらいますが、その場ですぐにサインを求めず「専門家のアドバイスをもらって、契約書の内容を確認し、納得してからサインをしてください」と被雇用者へ必ず進言してください。あらかじめ被雇用者へそう伝えておけば、後日問題が起こったときに「雇用契約書の内容がよく分からなかったが、雇用者からその場ですぐに契約書にサインせよと言われたので、サインした」と、万が一被雇用者から訴えがあった場合にトラブルを回避できます。

特に、被雇用者は雇用契約が成立した時点でその事実に満足してしまい、給与や勤務時間、業務内容などを確認すれば、雇用契約書の他の事項については気にしないという傾向がしばしば見受けられます。そのため、後日「契約の時点でそんな話は聞いていない」というトラブルになるケースも考えられるので、雇用者側はあらかじめ起こり得る事態を想定して、契約時に被雇用者へ説明する必要があります。

問題が起こったときの手続きなどについて

雇用法は、上述のように被雇用者が雇用法の内容をよく知らないかもしれないということを前提とした法律なので、問題が起こったときの仲裁手続きや相談機関などの連絡先についても雇用契約書の中に記載しておく必要があります。通常の手続きは次のようになります。

まず、従業員が仕事上や職場について不満に思う、もしくは納得できないことがある場合、90日以内に会社の直接の責任者に伝えます。それに対し、当然ながら会社の責任者は迅速に必要な調査を行い、これに応える義務があります。

会社の責任者の対応が不十分であったり、問題が解決されていないと従業員が考えるときは、従業員はMinistry’s Service Centreへ相談することになります。ここには、雇用問題の調停を扱うLabour Inspectors、日本語でいうところの調停係官がいます。

相談された問題が従業員の権利侵害に関する問題の場合、調停係官は調査を行い、何らかの決定を下します。これ以外の問題の場合には、無料のMediationが行われます。

Mediationは日本語で調停と訳されていることが多いのですが、日本の調停とは少々異なる制度です。Mediationでは調停係官を挟んで当事者が問題点を話し合い、それぞれの弁護士が同席することも珍しくありません。また、調停係官は通常、問題点の整理をして当事者間の解決促進を図りますが、Mediationの場合は問題への結論を言い渡す権限は調停係官にはありません。ただし、雇用に関する問題の場合、調停係官はこの問題がEmployment Relations Authority(雇用裁判所へ行く前の調停機関)で審議された場合、どのような結果になるかについて、アドバイスすることができるとされています。しかし、実際にはよほど大きな問題でない限りは、調停係官のアドバイスを受けることにより、当事者間での調停は成立することが多いようです。

解雇

被雇用者の仕事内容や態度に問題があるなどにより、雇用者が解雇を考えるときには、確立された慎重な手続きが雇用法に定められています。雇用法の根底には、適正な手続きを経なければ、正しい結論は導けないという極めて合理的な考え方が流れています。従って、雇用者が解雇の問題を扱う際には、その内容と同じくらい手続きが重要であることを、あらかじめ知っておく必要があるでしょう。雇用者が出した解雇という結論が被雇用者の行為に対して妥当なものであるとしても、その結論に至った過程が適正な手続きを踏んで行われたものでなければ、Employment Relations Authorityから不当解雇と見なされる、もしくは不十分な手続きに対する罰金の支払いを要求されることになるかもしれません。

以下に、被雇用者の解雇を行う際の手続きについて、簡単に記します。

1. 雇用者は、被雇用者の勤務内容について不十分であると思われる点があり、そのことについての話し合いを目的とした会議を行いたいという内容を記載した書面を当該被雇用者へ送ります。なお、書面には被雇用者が信頼するサポート役を会議へ同行しても構わない旨を記載しておきます。

2. 会議で、雇用者は問題と考える点を明確に述べ、期限を定めた上での改善を被雇用者へ要求として伝えます。同時に、雇用者は被雇用者が改善を行うために、会社も仕事上の援助や指導を被雇用者に対して行うことを当該被雇用者へ伝える必要があります。

3. 期限とした期日までに被雇用者の改善が見られないと雇用者が判断した場合、雇用者は、再度、正式な会議を持ちたいとする旨の書面を被雇用者へ送ります。

4. 再度の会議において、雇用者は前回要求したにもかかわらず、改善がなされていないと考える問題点を被雇用者へ具体的に指摘して、被雇用者自身の意見を求めます。この意見を踏まえ、必要ならば会社はさらなる援助や指導を被雇用者に対して行います。

上記4.の後、一定期間経ったにもかかわらず、被雇用者に改善が見られないと雇用者が考えるときは、最後の会議を持った上で、被雇用者へ書面で解雇を伝えます。

以上が解雇を行う際の適正な手続きとなりますが、Serious Misconductsといわれる重大な違法行為に関しては、上記のような手続きを踏まなくても、即解雇ということもあり得ます。ただし、その場合においても、雇用者は被雇用者の理由に耳を傾ける姿勢を示すことが重要です。また、職場での暴力事件や窃盗は、Serious Misconductsに相当すると考えられますが、実際の職場ではこの判断が難しいことがいろいろとあるのも事実です。職種によっても、Serious Misconductsの内容が異なる面がありますので、何がSerious Misconductsに相当するかを、あらかじめ雇用契約書に明記しておくとよいでしょう。