ニュージーランドでのビジネスに関係する法律問題(3)

概要

今回はこのシリーズの最終回として、ニュージーランドにおける労働ビザ、銀行ローン、ビジネス売買について説明します。

労働ビザ

ニュージーランドでビジネスを始める会社が日本からの人材を必要としている場合をよく見掛けます。日本で培ってきた知識や技能を持った社内の人材をニュージーランドに派遣する、もしくは適切な人材を日本で募集するといった場合です。

労働ビザに関するニュージーランド政府の姿勢は、国内の労働力を優先的に雇用することです。雇用促進とビザは強く結び付いています。ある仕事に適切な人材を国内で見つけることができない場合に限って、海外からの人材を認めるという姿勢です。この場合には、労働ビザの取得が必要となります。

労働ビザ申請の手続きには上記の政策が反映されています。まずは地元で適切な人材を探したことを証明するものとして、通常は複数回、国内で求人広告を出すことが定められています。新聞、Trade Me(求人サイト)、Work and Income(ハローワーク)に掲載した広告などはこれを証明する証拠と見なされます。

仮にこれらの求人広告に対して応募がなかった場合でも直ちに海外から人材を募集することはできません。すでに雇用している人材を教育して、その職種を担当できる人材に育てられないのかというのがニュージーランド移民局の姿勢です。言い換えると、一定の専門知識や技能が必要とされる職種であることが条件とされ、それに該当しない職種については、労働ビザは取得しにくいといえます。

仮に求人広告を出した後にニュージーランド人からの応募がなかった、もしくは応募はあったが適切な技能を持った者ではなかった、かつその技術を簡単に教えることができないことが証明できたとします。すると、次に海外から採用したい人材がその職種にふさわしい資格や経験を持っていることの証明として、雇用契約書の提出が義務付けられています。

雇用契約書には給与が記されていますが、この給与額が仕事の専門性と一致しているかどうかも審査の対象になります。すなわちその職種のニュージーランドにおける平均給与額でなければならないということです。

このような移民局による規制は、雇用者が労働ビザを悪用して被雇用者を不当に雇用していないかどうかを監視することも移民局の大切な仕事だからです。例えば、労働ビザの取得を必要としている人を、労働ビザの申請を条件に最低給与より低い給与で雇用したり、さらには給与を支払っていなかったケースが新聞で取り上げられました。

労働条件が合法であるかを監視するニュージーランドの体制は徹底しています。これらの法律はニュージーランドの領海内に入ってきた外国船の乗組員にも適用され、労働条件が不当である場合や、最低給与を下回っている場合は、その外国船の雇用者がニュージーランドの法廷で裁かれます。たとえ雇用者や被雇用者が外国の会社や人であっても、ニュージーランド内にいる間は、法律の順守を義務付けているといえます。

ビザと統計

ビザに関連した統計によると、ニュージーランドにおける労働人口の4人に1人は海外で出生しており、過去10年間の労働人口の増加の60%は、移民者で占められていました。またビジネスの中心地オークランドの人口の約40%は海外で出生しており、カナダのバンクーバーに次いで世界で2番目に移民者が多い都市とされています。

移民者は、ニュージーランドの経済成長において重要かつ積極的な貢献者として期待され、位置付けられています。労働ビザは、移民を制限するという消極的な側面だけでなく、強いニュージーランド経済を構築するためという積極的な側面を持っています。労働ビザや投資ビザを審査するときの基準には、ニュージーランドの経済発展に貢献し、かつ雇用促進につながるかということが重視されています。

銀行ローン

銀行より資金を借り入れる場合、金額、期間、利子などは直接銀行との話し合いで決められますが、その後の実際の手続きは弁護士を通じて行われます。正式なローン関係の書類は全て、会社が指定した弁護士事務所に送られます。借り入れをする会社は、この弁護士よりあらためてローンの詳細について説明を受け、所定の書類にサインをします。サインされた書類はその法律事務所から銀行に送られ、借り入れの資金もその法律事務所のトラストアカウント(銀行口座)に送られてくる仕組みになっています。

ビジネス売買

ビジネス自体を売買することは、かなり頻繁に行われています。中小のビジネス売買にはオークランド弁護士協会が作成したビジネス売買契約書のひな型がニュージーランドのほぼ全域で使われています。

以下、ビジネス売買に関する重要な取り決め事項を簡単に紹介します。

売買金額とその内訳としてビジネス売買に関連した物品(機械、用具、車両など)の有形固定資産の金額(Tangible assets)と商標権などの無形固定資産の金額(Intangible assets)を決める必要があります。これらは後の会計処理に必要となります。

売り手であるビジネスオーナーは、事務所もしくは店の場所をリースしていることが多いため、その条件の確認、引き継ぎ手続きは重要です。大家は買い手である新しいテナントを拒否する権利を持っているので注意が必要です。

その他には、一定の売上金につき購入するかどうか、ビジネスを引き継いだ後のアフターサービスやサポートを売り手から受けることができるか、売り手が近くで同業の仕事をしてはいけないなどの条件を設定することができます。

職種によってビジネス売買のときに気を付けなければならないことが大きく異なるので、早い段階で弁護士に相談して、アドバイスを受けることをお勧めします。