ニュージーランドでのビジネスに関係する法律問題(1)

概要

ニュージーランドでビジネスを成功させるためには、弁護士などの専門家の助言はもちろん必要ですが、実際のビジネスの運営者が法律の基本的知識を持っているか否かで、その後のビジネスの展開に大きな違いが出てくると考えられます。今回は、現地法人の登録と物件のリース契約に関して知っておくべき事柄について説明します。

ニュージーランドでのビジネスで必要なことは

ニュージーランドでビジネスを始める場合、通常まず現地法人の登録を行います。次に会社や店の開業には場所が必要となるので、適切な物件を見つけてリース契約を結ぶことになります。

そして、ビジネスは一人ではできませんから人を雇う必要があります。この場合には、雇用契約書や雇用法についての知識が必要となります。日本から送り込まれた特定の人にマネジャーとして仕事をしてもらいたい場合に限らず、従業員が永住者でない限り労働ビザが必要となります。また、資金を借りる必要がある場合にはローンを組むことになりますが、この手続きのためにニュージーランドの銀行は弁護士の指名を要求します。

ビジネスの内容にもよりますが、既にあるビジネスを購入する形で自分のビジネスを始めるのも一般的です。会社を買い取るのとビジネスを購入するのは別なので、それぞれについての法律知識も必要となってくるかもしれません。また、さまざまな関連会社と契約を結ぶ必要も出てくるかもしれません。

このように、ニュージーランドでビジネスを成功させるためには幾つもの法律知識が必要となってきます。日本でも同様だと思いますが、詳細については弁護士などの専門家の助言を受けながら進めることになるとしても、やはり実際のビジネスの運営者が法律について基本的な知識を持っているか否かでは、その後のビジネスの展開に大きな違いが出てくると考えられます。

そこで、今回はニュージーランドでビジネスを成功させるために知っておくとよい法律の基本的知識について、説明したいと思います。なお、以下の説明について、全ての人に関係するものでないと考える場合には簡単に記しますが、簡単に書かれてあるから必ずしも重要でないということではありませんので、その点を注意してください。

現地法人の登録

現地法人の登録は、下記のNew Zealand Companies Officeのウェブサイトからできます。
Companies Office
なお、New Zealand Companies Officeに掛かる登録費用は160.22ニュージーランドドルです(2014年現在)。

登録の際に特に提出しなければならない書類はありません。しかし、会社構成が最適なものになっているか(例:誰をダイレクターとして登録するか、誰が株主になるかなど)が後で重要となってくることがあるかもしれないので、その点は注意が必要です。特に、社員の誰かが労働ビザを申請する可能性のある場合はこれが関係してきます(この点については、次回以降で説明の予定です)。

いったん登録すると、Annual Returnといわれる登録確認を毎年する必要が出てきます。これを怠ると登録が取り消されるので、注意しましょう。

リース契約

リース契約については、大家に支払う金額(家賃)が会社やビジネスを購入する金額に比べて比較的小さいためか「借りる期間と年間に支払う家賃が分かれば十分」と簡単に考える人が結構多くいます。

確かに、ビジネスの種類によっては始める際に上記の点だけ分かっていれば、後でそれほど困ることがないということも事実です。しかしながら、例えば開業予定のビジネスが多くの一般のお客様を相手とする場合は特に気を付ける必要があります。

ここで全ての職種についての説明はできないので、比較的分かりやすいレストラン経営を例に挙げて次に説明します。

レストラン経営では、リース契約についてきちんとした法律手続きを済ませていない、もしくは十分にリース契約書(正確にはDeed of Lease)の中身を理解していない場合、店の人気が出てきたころに「建物から出て行ってください」と大家から言われる可能性があります。これはレストランにとっては大きな問題です。まず、簡単に代わりの場所を見つけることができないかもしれません。また、仮に適切な建物があったとしても、その場所が、今までの固定客が今後も継続して来店することが可能な距離にあるか否かは、経営上重要です。他にも、キッチンなどの調理施設について費用を掛けて立派なものに仕上げたにもかかわらず、それをそのまま新しい店舗へ移すことはできないケースがあります。その場合、かなりの費用が新たに必要となる可能性が考えられます。

上記のように、リース契約の法律手続きをきちんとしておかないと、リースで支払っている家賃の金額とは関係なく、想定外の大きな出費が起こるかもしれないという点について、あらかじめ知っておく必要があります。

次に、リース契約の中身についての注意事項に関して、何点か説明します。

リース期間に関しては、Right of Renewalというテナントの権利を交渉することができます。これは、例えば最初にリース契約を結ぶ際に、3年のリース期間の終了後にテナントが希望すれば、さらに3年や4年などというように期間を延長できる権利をあらかじめ得ておくことが可能だということです。また、いつかビジネスを売却しようと考える場合でも、十分なリース期間が残っているかはビジネスの購入者にとって大きなポイントになります。

上記のリース期間とは直接関係なく、Rent Reviewと呼ばれる家賃見直しの条件をリース契約の最初に決めます。家賃見直しはニュージーランドでは2年ごとが一般的ですが、物価指数に合わせて毎年上がる、物価指数が下がっても家賃は下がらない、最初の3年は据え置くなどさまざまなパターンの発生が考えられます。この場合、数年先をよく考えて事前の交渉をしっかりしておくことが重要です。

市街地の建物や古いリース物件の場合、大家側が要求するかもしれない条件にDemolition Clauseがあります。これは、内容としては建物取り壊しに関する条項を意味するのですが、通常大家が大きな改築を考えている場合に要求してくるかもしれません。例を挙げると、6カ月前に通知をすれば、テナントは通知を受けた6カ月後に出て行かなければならないとするものです。通常のオフィスとして場所を借りている場合は、6カ月以内に他の場所を見つけるのはそれほど難しくはないと思われますが、上記の例で述べたレストランなどの場合はDemolition Clauseを受け入れるかどうかについて、事前に十分な考慮が必要となってきます。

クライアントの中には「大家さんと話すととてもいい人で、テナントのためにさまざまな特典を認めてくれました」と言う人がいます。これはもちろんテナントにとっていいことですが、これらについてはDeed of Leaseにきちんと記しておく必要があります。なぜなら大家がその建物を誰かに売却する、すなわち大家が代わるというケースが起こる可能性が常にあるからです。この場合、新しい大家から「口約束で決まっていたことは知らない」として、それら全てをほごにされる可能性があります。

また、説明するまでもないことですが、Deed of Leaseに書かれてある事柄は新しい大家にも拘束力を持ちます。従って、テナントにとって有利な既得権は全てDeed of Leaseに記しておくことが重要です。