判例から学ぶ!NZ法律案内 第1回

第1回 争議審判所

ニュージーランドに長く住んでいても、争議のために裁判所へ行くことはあまりないと思います。しかし、比較的小さな問題は短期間の滞在でも、私たちの周りでしばしば起こります。例えば、貸した金の期日が過ぎ、催促しても返してくれない、車の修理代が見積額よりかなり高い、もしくはペンキ塗りを頼んだが仕上がりが不十分なので支払いたくない、といった問題です。このような場合、あまり費用をかけずに自分で解決するための公的機関が争議審判所、Disputes Tribunal(ディスピューツ・トライビューナル)です。初回はこの機関の利用の仕方と私自身の体験についてお話しします。

(Quarter 2002年秋号より)

ディスピューツ・トライビューナル

この機関は公式な裁判所ではありませんが、争議に対して双方の意見を聞いた上で、調停案を出したり決定を下したりするレフリーと呼ばれる調停審判員がいます。この審判員が決定を下すと、その決定は法的拘束力を持つことになります。決定の中味には、損害への支払い命令、修理の要請、不公平な契約書の破棄などがあります。

争議の場に持ち込みたい問題があっても、英語で議論するのは難しいという人のために、事前に申請すれば無料で通訳も付けてくれます。これはニュージーランドらしい親切な制度だと思います。自分自身で解決を図るのが基本となっているので、弁護士が直接かかわることができないのも特徴の1つです。

ディスピューツ・トライビューナルで取り扱うのは比較的小さな問題といいましたが、請求の額でいえば7,500ドルまでとされていて決して少額とは限りません。訴えにかかる費用(Hearing Fee)は裁判に比べてはるかに安く、請求額によって異なります。例えば1,000ドル以下の請求額なら30ドル、5,000~7,500ドルなら100 ドルと定められています。訴えを起こす時の手順は、地元の地方裁判所より“Notice of Claim”用紙を手に入れ、必要事項を記入し、費用と共にその地裁へ提出するだけです。

注1、取り扱い請求額は、2022年1月21日現在30,000ドルに引き上げられています。

注2、訴えにかかる費用(Hearing Fee)についても、2022年1月21日より以下のように変更されています。
請求額が

2,000ドル以下: 45ドル
2,000~5,000ドル以下: 90ドル
5,000~30,000ドル以上: 180ドル

私自身の体験

さて、実際の争議の場ではどういうことが話し合われ、どのように判断が下されているのでしょうか。一例として私の経験を記してみます。

私のケースは車の衝突事故でした。私の側の言い分は次のようなものです。オークランドのビクトリアパークの近くで食事をしようと左手にある駐車スペースを探しながら、道幅の広い道路を運転していました。空いているところを見つけたので、方向指示器を点滅させながらそこに入ろうとした時、かなりのスピードで走っていた後ろの車にぶつけられました。

一方、相手の運転手(M)は事故の責任が私にあると言います。Mによると、私が幅広い道路の右寄りのところを走っていて、急に左に曲がってきた。そのため、Mは道路の中央を制限速度で運転していたにもかかわらず、避けることができなかったと主張しました。助手席にいたM のガールフレンドが証人として出席し、「私たちが十分な車間距離を取って、時速50キロぐらいで走っていた時、道路の右寄りを走っていた赤い車(私の車)が方向指示器を点滅させました。何をするのだろうと思っていると、急に左へ曲がり始めたため避けきれず、ぶつかってしまいました」と証言しました。すなわち、事故の原因は私の走っていた位置と急な左折によるものという主張です。

まったく相いれないこの2つの主張に対して、その場にいなかったレフリーがどのような結論を下すのかは、自分自身の利害を離れても、私にとってはとても興味のあるものでした。

レフリーは私の責任が2割、Mの責任が8割と判断し、その理由を次のように説明しました。

1. 左側にあるパーキングを探しながら走っていた私の車が、道路の右寄りを走行していたとは考えにくい。
2. Mが十分な車間距離を空け、制限速度内で走行していたのなら、方向指示器の点滅に気づいた時点で衝突を避けられたはずだ。
3. 左折時に後ろを確かめなかった私にも幾分かの非がある。

いかがでしょうか? 私は見事な推論だと、今でもとても感心しています。
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