判例から学ぶ!NZ法律案内 第4回

第4回 半分真実

契約成立後、実際にはその契約書に明記されていなくても、契約交渉中に一方が明言した重要な事柄が事実でなかったことを証明すれば、賠償を求めるか、場合によっては契約をキャンセルすることも可能です。それでは、一方が明言した事柄が「半分真実」だったという場合はどうでしょうか?

(Quarter 2003年夏号より)

Half Truthとは

1984年に国内で起こったケースを見てみましょう。WはJからランチバーのビジネスを買い取ろうとしていました。交渉の過程で、Wがこの近辺にいる競争相手の有無を確かめる目的で「この辺りで一番近くのランチバーはどこにあるか」と聞きました。この質問に対してJの代理人である不動産屋は「一番近くの競争相手は1キロ近く先だ」と答えました。それならばと購入した後、しばらくして数軒先に同じようなランチバーがオープンする予定であることが分かりました。近くに似た店ができるのが分かっていれば、このビジネスの購入をやめていたか、少なくとももっと安い値段でないと購入していなかったはずです。

このケースでは、売り手(J)はその事実を知っていたにもかかわらず、交渉を有利に進めるため意図的に言わなかったわけです。Wがこれを違法として契約破棄、もしくは賠償を求めようとした時、Jは次のように“反論”しました。「もし『この近くにランチバーができる予定があるか』と尋ねられたのに『ない』と答えたのならば、私はうそをついたことになる。しかし、あなたが聞いたのは『どこに一番近くのランチバーがあるか』で、その時点では1キロ先までほかのランチバーはなかったのだから、私はうそをついていない」

ここでのポイントは次のように言うことができるでしょう。近くに商売上の競争相手がいるかどうかを確認しようとした質問の主旨に対しては、結果としてうその答えになっていますが、いわゆる文字通りの質問に対しては正しい答えとなっています。

裁判所はこのような事実関係を、半分真実、Half Truth(ハーフ・トゥルース)と呼んで認識しています。Half Truthを英米法辞典で調べると「自己の利益を得る意図をもって重要な事実を隠し、その一部のみを告げること」となっています。すなわち裁判所は Half Truthを真実として認めず、偽りの陳述と認定しているのです。

日常生活の中のHalf Truth

普段の生活においても、Half Truthの考え方を知っておくことは有益だと思います。日常の議論や口論の中で、人は意図的に、もしくは無意識的に自分に都合のよい事実だけを並べて自らの意見を正当化し、都合の悪い重要な事実については、相手に気付かれないようにしようとする傾向があるのではないでしょうか。このような傾向をもった議論には、その中にHalf Turthがひそんでいる場合がしばしばあり、そのことに気付かないでいると、正しくない相手の議論に押されてしまう可能性があります。前述のケースで言えば「現在の競争相手の有無を尋ねただけの私の質問が不十分だった」と不満ながらに受け入れてしまう可能性があるということです。

このような時「Half Truthは虚偽の陳述」と見破り、隠されている重要な事実を指摘することで、まやかしの議論にだまされないようにしたいものです。前述の反論に対しては、例えば次のように言い返すことができます。「『この辺りで一番近くのランチバーはどこにあるか』と聞いたのは、ビジネスの購入に当たり、影響のある競争相手の有無を知りたかったからで、あなたも分かっていたはず。従って、すぐ近くにランチバーができることを言わなかったのは私の質問に答えていないだけでなく、うそをついたことにもなる」。ちなみにこのケースでは、実際の売上高などによってビジネスの価値を裁判所が査定し、購入価格との差額を賠償金として認めています。ただし、Half Truthが認定されたことでこの契約自体が解消されるまでに至るとは限らないということも理解しておいてください。

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