ニュージーランドにおける病気休暇の判例

ニュージーランドの雇用法では6か月間の勤務を完了した時点で、先一年間に5日間の病気休暇の権利が生じます。これは自分の病気だけでなく、子供や配偶者などの身近な人の世話のためにも使える権利です。家族みんなが元気で一年間に1日もこの休みを取らなかった場合には最高20日間まで溜める(rolling over)ことができます。

最近見かけた病気休暇の判例を紹介します。日系の自動車会社の機械工Aが病気休暇をたくさん取得したために解雇を余儀なくされたとしてEmployment Relations Authority(ERA:雇用裁判所へ行く前の調停機関)に訴えたところ、①屈辱(Humiliation)、②尊厳の喪失(loss of dignity)、③感情毀損(injury to feelings)が認定され$15,000の賠償金が与えられました。この他にも損失収入(lost income)としていくらかが保証されたようですが、この金額は公表されていません。

Aは230日の仕事期間中30日この休みを取りました。ただし法律の規定以上の日数を使った場合には欠勤扱い、すなわち給与は支払われません。Aの場合、自分の病気もありましたが、彼の奥さん、そして3人の子供ために取られた休暇と言うことでした。ERAは彼以外の誰も子供の世話をできない状況であり、病気休暇を取る時にはその事情を雇用主に説明し、医療情報も知らせていたと裁定しています。

Aの仕事ぶりは平均以上で病気休暇の多さ以外は何も問題ないことを雇用主のBも認めています。

Bは解雇になる以前に2回の警告を与えていました。A が子供の世話で病気休暇を取っている時にBは突然彼の家を訪ねて、なぜ奥さんが子供の面倒を見れないのか聞き、子供が本当に病気であるかどうかを確認しています。さらには子供が病気になったとしてAが早退したときに、BはAの 妻の職場に電話を入れて彼女がそこにいるかを確認していていました。それだけでなく彼女や子供の健康状態を聞き、なぜ夫の代わりに彼女が早退できないのかなどを問い詰めていました。

その後Aは雇用主Bより会社を辞めるか、更なる病気休暇を取らないと合意するかと迫られ辞職しましたが、ERAはこれを事実上の不当解雇と認定しました。

よく休んだり早退したりする従業員は困ると言うのは会社として当然ですが、この対応には雇用法のルールに沿った慎重な対応が要求されてます。この判例では特にAは病気休暇が必要な事情やその証拠にあたる医療情報を示していたとされてますので、嘘をついているかを前提としたような会社の対応は慎まれるべきであったと言えるかもしれません。

月曜日によく病気休暇を取る人がいるとかまことしやかに語られますが、このような場合には会社が会社の費用で医者からの証拠書類を従業員に要求することはできます。

会社が従業員の行為に不満がある場合でも、会社側に特に求められているのは誠意を持った対応 (Good Faith) で、「目には目を」といった短絡的な対応ではERAに行くことになると通用しないということになるかと思われます。職種や事情によってその対応はもちろん異なってきますが、例えばその人が急に休むと仕事の流れに支障が出るとか特定の誰かにしわ寄せがいくということであれば、これをどう思うかとその従業員に相談したり、誰にでも病気休暇は起こりうることですのでこれに対応できる会社の体制を作っておくなどが考えられるのではないでしょうか。

『オークランド日本人会2017年春号に記載』