ニュージーランド移住計画

海外移住という選択。1980年代後半から1990年頃にかけては、日本のバブルによる好景気、円高など追い風を受けて、リッチなライフスタイルを海外に求めて移住するケースも多かった。 それが2001年頃から、ロングステイという言葉も加わり、日本の社会環境や構造の変化による歪みへの対応策のひとつとして、海外移住が考えられるケースが増えてきた。

現在の閉塞感漂う日本の社会から飛び出し、海外で幸せををつかむ、海外にビジネスチャンスを求める、そんな異なる土俵でのリスタートを考える人たちが急増している。 海外移住の目的は人それぞれで違うし、そのプロセスも目的によって大きく変化してくる。しかし避けて通れない大きな関門は、なんといっても「永住権やビザ」の取得。 短いスパンでめまぐるしく変化する移民法。ビザの申請時期によっては取得へのハードルの高さは大きく違ってくる。そのため同じ条件でも取得可能な場合と不可能な場合が生じる。

オークランドで弁護士として活躍する西村純一氏は、現在ニュージーランドでただひとりの日本人弁護士。この国の移住事情と移民法や申請方法についてお話をお聞きした。
変更が繰り返される移民法。英語力の高いハードル、永住権取得の実情とは

■ここ数年、永住権取得に関するニュージーランドの移民法はめまぐるしく変化していますが、なぜそんなに法律を変更する必要があるのでしょうか?

西村「理由は様々ありますが、やはり移民の数の調整が大きな目的のひとつです。ここ数年で考えると、永住権申請における英語力の条件である、IELTS6・5以上(留学や移住のために必要な英語能力認定テスト。アイエルツ は、英国の公的な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルで実施している)という条件は、日本人はじめアジア系の人たちには高いハードルかもしれません。留学生の4年制の大学入学の条件と同レベルですから。不自由なく英語で生活ができる語学力が必要です。だから2005年はアジア系移民の数は減り、イギリス人の移民が一番多かったんです。」

■現状では、かなり英語をマスターしないと永住権を取得するの無理なのでしょうか?

西村「そうですね。ただここで考えてほしいのは、英語は勉強すればマスターできる、ということです。簡単なことではありませんが、英語力というハードルは勉強すればクリアできるわけです。職歴などとは違い、今から自力で解決可能なハードルですよね。」

■ではニュージーランドの永住権を取得するには、英語力に加えて、どのような条件が必要になるのでしょうか?

西村「永住権申請には、大きく分けると、技能移民部門、企業家部門、投資家部門、家族部門、人道部門の5つのカテゴリーが設けられています。永住権を取得する場合、もっとも一般的なのが技能移民部門です。この部門の必須条件は、先ほどお話ししたIELTSの平均で6・5ポイント以上を取得していることに加えて、年齢が56歳未満であること。4年制以上の大学を卒業し、学士号以上の資格かそれ相当の資格を取得していると有利です。または専門学校を卒業し、その職業資格を有していること。この場合、NZQA(ニュージーランド資格審査局)が認可した職種になります。それぞれの内容はパスマークと呼ばれるポイントに換算され、合計がその時点の規定のポイントに達することが、最低申請条件となります。現在の規定ポイントは100が基準になっています。」

■最低申請条件ということは、規定ポイントを獲得しただけでは、永住権は取得できないのですか?

西村「現在のところ140ポイント以上あれば自動的に本審査を受けることが出来、永住権取得の可能性がかなりありますが、それ以下の場合はある期間内に申請された中で、高得点者から一定の人数のみが永住権の本審査を受けることができるようになりました。」

■他のカテゴリーの申請条件は?

西村「企業家部門は、それまでのビジネスのキャリアとニュージーランドでの綿密な事業計画を提出して申請します。申請が通ってもすぐには永住権は取得できません。まずはロングターム・ビジネスビザと言うワークビザが発行されます。事業をスタートさせ軌道に乗せ、受給後2年以上を経過すれば永住権を申請できます。事業がうまくいっていれば永住権の取れる確立は高いです。 投資部門は投資金額や年齢をポイントに換算して判断されます。現在はこれらの事業ビザでもIELTSのポイントが一定基準に達していないと申請ができなあい事があります。家族部門は、永住権、市民権を有する人の血縁関係などをもとに申請する部門です。基本的には、婚姻、内縁、親子という家族関係ですが、ケースバイケースで判断されます。人道部門は戦争難民や政治難民を対象にしているので、日本人にはあまり関係のない部門です。」

■以前、ワークビザでニュージーランドの企業(日系も含む)に就職して2年間働けば、英語ポイントはクリアできると聞いたことがあるのですが?

西村「以前は2年間働いた実績があれば、生活していけるだけの英語力があると判断され、IELTSの試験が免除されていましたが、現在は技術的な職種と移民局が認めた仕事に一年以上従事した場合は免除される可能性がありますが、何とも言えないのが実情です。これもケースバイケースで、その人の申請の審査に当たるオフィサーの裁量によるところが大きいです。」

ワークビザで、働きながら永住権取得は可能でしょうか

■では次にワークビザについてはいかがですか。ワークビザで働きながら、永住権を取得することは可能ですか?

西村「日本企業が管理職や技術者を派遣する場合、もしくはニュージーランド企業が雇用する場合に取得するビザがワークビザです。ワークビザの場合、勤務している企業のサポートを受けて、延長の申請をすれば最高で5年間滞在できます(例外はある様ですが。)。その間に永住権を取得することは可能ですが、ここ数年でその審査はかなり厳しくなりました。ワークビザで働いている期間に起業して、長期ビジネスビザの取得を経て永住権を申請するのも方法のひとつです。」

■お話を聞いていると、現状では永住権取得はなかなか難しいようですね。

西村「ニュージーランドに移住する、その想いにどれだけの熱意と決意があるかと考えています。それ次第だと思います。たしかにクリアするべき項目は多いですが、熱意を持ってあたれば可能になるはずです。もう40歳を過ぎた人でしたが、どうしてもこの国で暮らしたいと考え、日本でいちから料理人の修業して、永住権を申請している方もいらっしゃいます。時間はかかりますが、これが私の考える熱意です。また、暮らしていると様々な人間関係やネットワークができてくる。そうすると考えてもいなかったところからチャンスが生まれることもあります。誰かがそのチャンスを与えてくれるのも、それをつかむのも、やはり熱意です。」

■移民法は、今以上に移住希望者に対して厳しくなるのでしょうか? また申請には弁護士さんにお願いするほうが取得しやすいのでしょうか?

西村「今後の移民法の動き方は簡単に予想できません。それは移民が及ぼす経済的な影響などを考慮しながら、様々な国から移民を求め、毎年何らかの見直しを図っているためです。過去の経験から言えば、様々な要素を考慮するため、ハードルは高くなったり低くなったりしています。英語の基準などは将来多少低くなるのではないかと私は予想しています。したがってどの時期で申請するかは、取得の可否に大きく影響してくるでしょうね。申請を専門家に依頼すれば、クライエントにとって一番有利な条件での申請方法を考えてくれるでしょう。先にもお話ししましたように、永住権取得の可否は、移民局のオフィサーの裁量や判断によって大きく変わるところがあります。彼らは提出された書類で判断するわけですから、申請書類の作成は慎重に行った方がいい。オフィサーに対してよいプレゼンテーションが必要になりますから、この点においては専門家にアドバイスを受けるなり、書類作成を依頼するなりしたほうが得策かもしれません。」

(月刊雑誌ソトコト別冊2007年2月号に記載された記事に一部修正を加えました。)